私は18歳でトヨタ自動車に入社し、車載用リチウムイオン電池の試作開発の現場で、約10年間、品質管理と工程改善に携わってきました。
現在は、Whiste株式会社の代表取締役として、中小の製造業向けに「品質・現場の改善」と「映像制作」を掛け合わせた事業を行っています。
「なぜ、製造業のエンジニアが、映像を作っているのか?」 「なぜ、泥臭い製造現場に、映画のような映像が必要なのか?」
少し長くなりますが、私がこの事業を立ち上げた本当の理由と、日本のモノづくりの現場が直面している「技術継承の、難しい現実」について、お話しさせてください。
私がこの仕事をしている原点は、18歳の頃の、強烈な記憶にあります。
入社して間もない頃、私は作業で大きなミスをして、高額な設備を壊してしまいました。上司と一緒に、原因を問われている時のことです。本来なら、私が一人で責められるはずでした。でも、その上司は、私をかばってくれたんです。
「責任は、自分にもある」
そう言って、一緒に頭を下げてくれました。「なんで、そこまでしてくれるんだろう」と驚く私に対し、上司は一切、恩着せがましい顔をすることなく、その日の夜に、普通にご飯へ連れて行ってくれました。それまで「誰かに、ちゃんと守られた」という経験が少なかった私にとって、初めて、心から安心できた瞬間でした。
そして、本当に大事だったのは、その後です。
その上司は、私を責めるのではなく、「二度と同じミスが起きないように、誰がやっても失敗しないように、仕組みを直そう」と、一緒に原因を考えてくれたのです。
責任を、共に背負う覚悟。人への、温かさ。そして、人を責めずに「仕組み」を直すという、TPS(トヨタ生産方式)の考え方。
私は「この人のために頑張ろう」と、心から思いました。従業員は、単なる労働力でも、代わりのきく材料でもありません。人は「人財」です。この時の経験が、私の仕事のスタンスを、決定づけました。
約10年間勤めた会社を辞めて、私は独立しました。きっかけは、大きな組織で働く中で感じた、ある思いでした。
車というのは、何万人もの人が関わって一台が完成します。やりがいがある反面、車を買ってくださるお客様との距離が、とても遠く感じていました。「もっと直接、目の前の人に喜んでもらえる仕事がしたい」。そう思うようになったのです。
独立してから、新しい仕事を探す中で、たまたま出会ったのが、結婚式のビデオカメラマンでした。未経験からのスタートです。正直に言うと、私は最初から、映像そのものに強いこだわりがあったわけではなく、「たまたま出会ったのが、映像だった」というのが、本音です。
しかし、結婚式の現場で「人の感情を、どう切り取るか」を学んだ後、企業のプロモーション撮影などで、数多くの製造現場に足を踏み入れる中で、私は、日本のモノづくりの「難しい現実」に直面します。
都内のある町工場では、働いているのは50代・60代の方ばかりで、若い人が一人もいませんでした。また、地方の、業績が好調なある企業でも、社長が自ら一生懸命に新人を教えているものの、すべてが「社長の感覚(暗黙知)」に頼っていて、マニュアルが存在しませんでした。結果として、せっかく入社した若手が、すぐに辞めてしまうのです。
前職の大きな組織には、「こう教えれば、安全に、確実にできる」という、標準化された教育の仕組みがありました。しかし、多くの中小企業には、それがありません。「このままだと、素晴らしい技術を持つ会社が、潰れてしまう」。そう感じ、私はWhiste株式会社を設立しました。
私は、資金も人材も豊富な大きな組織を経験した一方で、独立後は「一人の組織」として働いてきました。だからこそ、中小企業の社長が抱える「明日の資金繰りを、どうするか」という切実な思いが、痛いほど分かります。
大企業の恵まれた環境でのやり方を、そのまま中小企業に持ち込んでも、機能しません。だからこそWhisteは、大企業的な「分厚い紙の標準書」や、数年がかりの「悠長な全体最適」を、徹底的に引き算します。
明日の売上を作らなければならない現場に、分厚いマニュアルを読み込んでいる時間はありません。私たちがやるのは、文字による情報伝達を極限まで削ぎ落とし、一番、若手が辞めてしまう工程に絞り込んで、直感的に理解できる「短い動画マニュアル」へと、変換することです。
「採用に困っているから、動画を作ってほしい」と、相談されることが、よくあります。
しかし、ただ綺麗な動画を作るだけでは、根本的な解決には、なりません。働きやすい、作業が辛くない職場を、まず「整える」。その魅力を、映像で「伝える」。この順番が、逆であっては、いけないのです。
そのために、私には一つ、変わったやり方があります。
言葉で教えるのが苦手なベテラン職人の仕事があれば、最悪の場合、私自身が現場に入って、その作業を、自分の体で覚えてしまいます。そして、それを誰にでも分かる形に翻訳し、動画へと落とし込むのです。
非常に泥臭く、事業として、効率が良いとは言えません。しかし、ここまで現場の奥深くに入り込み、職人の隣で汗を流して、暗黙知を言葉にできる人間は、他にそういないと思っています。
仕組みを整えるだけなら、スマホの記録動画でも、事足りるはずです。しかし、私はあえて、映画のように洗練された映像に、こだわります。
誤解していただきたくないのは、これは見栄えを良くするために「過剰な演出で、嘘をつく」という意味では、ないということです。私が目指すのは、現場の文化や雰囲気、寡黙な職人の横顔や息遣いも含めた、ありのままのドキュメンタリーです。
事業を立て直すには「仕組み」が必要ですが、人を集め、心を繋ぎ止めるには、リアルな「感情」に触れるアプローチが、欠かせません。光と影を活かし、あえて語りすぎない余白を持たせた映像は、見る人の心の、奥深くに届きます。
若い求職者が「この人たちと、一緒に働きたい」と、憧れを抱く。
そして何より、今そこで働いているベテランの職人自身が、自社の映像を見て「俺たちの仕事って、こんなに誇れるものだったんだ」と、思い出す。この、感情の揺さぶりを起こすために、映像の力が必要なのです。
私がお客様に届けたいのは、最終的に、一つの感情に集約されます。
「この会社で、このメンバーで、働いてよかった」
それは、18歳の私が、あのミスをした日に、上司の背中から受け取ったものと、まったく同じです。苦しいこともあったけれど、今、振り返ると、いい思い出になっている。あの充足感を、今度は私が、次の世代に受け渡していく番です。
今の時代、効率化が進み、働き方が多様化する一方で、「チームで働く感覚」や「人と人との、泥臭い関係」は、どんどん希薄になっています。しかし、会社という組織の本当の強さは、そこからしか、生まれません。
「個人の成長」と「チームの絆」。
この2つが掛け合わさった時に、初めて、「会社の成長」へと繋がります。
仕事の目的を、しっかり達成しながら、若手が個人として、確かな成長を実感し、ベテランと共に、チームとして働くことに、心からの充足感を持てる。そんな「働いてよかった」と誇れる会社を、一社でも多く、増やしていく。
それが、私が、映像と仕組みづくりの両輪で実現したい、日本の製造業の未来です。